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古本とビールの日々


by oxford-N

オックスフォード便り 159 「明治のお嬢さま」

黒岩比佐子さんの最新刊、『明治のお嬢さま』を、ロンドンへ行く車中で読みだし、ロンドンの地下鉄に乗ってもやめられず、ついにはパブへ直行し読みつづけた。
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「巻置くあたわず」とはこのことか。とにかく面白い。一読三嘆『明治のお嬢さま』である。人生を深く考えさせてくれるところが面白いといえようか。

巻頭、あの岩波文庫の表紙を手がけた画家、平福百穂の筆になる「お嬢様すごろく」が示されている。(「すごろく」という言葉が死語でなければよいが)

これが本書の見取り図になり、じつに楽しく読みほぐされていく。でも侮るなかれ、本書は1880年代から1890年代にいたる近代日本「女性史」にもなっているので、楽しんでばかりいると「振り出し」へ、という羽目になってしまう。

とにかく明治のお嬢さまは大変である。いくら努力しても「美麓」でなければ失格の烙印を押されてしまう。出自や家柄、ましてや容貌は本人が選べないだけにつらい。多少化けたところでどうなるものでもない。

女性でなくても三拍子揃うのは人間、ほぼ不可能である。そんな奇跡のような美人を妻にしながら、10年間もひとりぼっちで「さびしい思い」をさせた男性がいたというのも驚きだが、ここに男女の機微が隠されている。

こんな美人を妻にして、どうしてあんな女に走るのかという類の話は世間ではよくある。ある時、そんな当事者に立ち入って聞いてみたことがある――「どうしたあんな美しい人がいながら…」、と。

いわく、「いくらステーキが美味しいからと言っても毎日では飽きて、胸にもたれてしまう。たまにはあっさりしたお茶漬けがいい」と。
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こころみに、柳原百連の写真(235ページ)を見てみるがいい。ため息しか出ないほどの美しさである。でもこの美しさはよく見ると哀しみをひめた美しさである。

美しければ美しいでまた大変なのだ。本書には、そのような意味で(?)凡人を勇気づけてくれる「真理」が隠されている。美しさだけが幸せにつながる、すべてではない、と。

その証拠にイギリスでは日本人女性のもて方が突出している。オノ・ヨウコを見よ、マークス・スペンサーの妻になった女性を見よ。「美」は関係ないのである。ところ変われば、の話ではあるが…。

一方、日本人男性はイギリス人女性からはまったく相手にされない。やはり「美」が問題なのだろうか。死の烙印を押されそうで恐ろしくてまだ質問できないでいる。

願わくば、『明治のお嬢さま』の著者に、姉妹版温情編『明治のおぼっちゃま』を書いて頂いて、われわれ男性を勇気づけてもらいたい。
by oxford-N | 2008-12-15 20:04