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古本とビールの日々


by oxford-N

オックスフォード便り 166 「シャーロック・ホームズ」

世に「シャーロキアン」なる人々がいる。機会があり、何度かこの同好の会にお邪魔した。
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アーサー・コナン・ドイルがのこした56編のホームズものを耽読し、その「聖典」の教義を、犯人を追いつめる探偵の如く、解明しようとしている。

マニアの世界のすごさに怖じ気づき、これは近寄らずにこしたことはないと思い、距離を置いて見ていた。

その会の何人かの方と知り合い、個人的に話しているうちに、別にホームズはそんなに好きではない。ただスリラーが、鉄道が、イギリスが、旅行が好きだから入会しているという方が多くいることがわかった。

つまり大きく網を張ると、ホームズの世界よりも英国が好きだという人の方が絶対数で多いとお見受けした。

そんな折、ホームズものが200点ほど廉価で古書展に出たので、「聖典」全2巻を10ポンドで購入した。開巻するなりシャーロキアンの世界が広がっている―――
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この「聖典」の世界の道案内をする司祭ウィリアム・ベアリング=グールドなる御仁の注を下す熱意には圧倒される。ホームズのすべてが解明されていく。

ガス灯に浮かぶホームズというイメージが先行するが、この注でガス灯を調べてみると、ホームズの時代、高価で家の中心の部屋にひとつともされていたくらいで、他はすべてオイル・ランプであったと明記されている。

情報にも事欠かない。神戸北野坂にホームズの部屋なるものができて人気を集めているが、ベーカー街の「元祖」の由来などまことに英国らしい記述とユーモアに満ちている。

ベーカー街に再現された部屋を「聖典」と比較して、忠実でない点をあげ、訂正しているのも妥協を拒む英国魂とみた。
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このイラストは、1951年、シャーロック・ホームズ展図録表紙からである。この日からでもすでに半世紀以上の歳月が流れている。

「聖典」への注釈作業は文化史の再構築の作業である。これはすばらしい。何でも食わず嫌いはいけないという教訓であった。
by oxford-N | 2008-12-23 21:05 | 古本