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古本とビールの日々


by oxford-N

オックスフォード便り 174 「素晴らしき奇人」

偶然にオックスフォードの古書店でF.J.ファーニヴァルの追悼文集を入手した。値段は20ポンドと少し高いが、もう二度と遭遇することもないだろう。
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F.J.ファーニヴァルは初期の英文学研究の基礎をつくった一人で、大物である。言語学と文学の伝記研究を学問の中心に据えていた。

現在では作家の個人学会が当たり前のように存在するが、この人が初めて立ちあげた学会も少なくない。チョーサー、シェークスピア、シェリーなど次々と設立していった。

『オックスフォード英語辞典』編纂の礎も多くの篤志家を動員して築きあげた。高齢になるまで第一線で活躍したが、その原動力はどこにあったか。

スカルという平底のボートをこよなく愛し、若い女性をいつも慈しんだ。この二つの情熱を束ねて一石二鳥の「女子スカルクラブ」までつくりあげてしまう。
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専門の学問に全身全霊をそそぎ、一方では労働者のための大学設立に奔走した。この情熱たるや、まさに「大陸に鉄道をひいてしまいかねない」くらいであった。

この追悼文集には世界の高名な学者からの哀悼が寄せられているが、いつも立ち寄ったカフェのウエイトレスも一文を寄せている。

永井荷風のアリゾナか大黒屋におけるのと同じように、いつも座る場所は決まっていて、「薄いコーヒーとバター付きのラスク」を注文し、時々、ストッキングをプレゼントしてくれたという。

85歳になっても毎週日曜日には女の子たちをひき連れて川へスカルをやりに出てきていた。何とも愛すべきヴィクトリアンであることか。
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このような人を見ているとやれ教育論ややれ方法論ではなく、教育は情熱だとつくづく思えてくる。
by oxford-N | 2009-01-10 19:56 | 古本