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古本とビールの日々


by oxford-N

オックスフォード便り 176 「ブルック冒険談」

前回に言及したジェイムズ・ブルックは「英雄」である。コンラッドがモデルに「ロード・ジム」を、キップリングが「王なりたかった男」を書いたというだけで十分であろう。
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また『オリエンタリズム』のなかでサイードは、ブルックのことを「ロマンティックな帝国主義者」と呼んでいる。ホワイト・ラジャ、白人王ならではの呼称である。

本人もまんざらではなく英雄の役回りを好んで演じていた。少年の情熱をいたく掻き立てる主人公に擬せられ、生前から彼をモデルにした多くの冒険小説が書かれた。

大英帝国がパブリックスクールと冒険小説から生まれたといわれるゆえんでもある。

冒険王でいる間はよかったのであるが、海賊征伐と称し、また首狩り族征伐という大義を掲げ、原住民を惨殺しだしたのである。

これは本国議会でもとり上げられ、本人も召喚されて尋問をうけた。ここが英国の理性とでもいうところなのだが、鹿児島攻撃の後、国会であまりの残虐ゆえ非難があがり、下関が攻撃を免れた事情とよく似ている。
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サラワクを舞台にした冒険小説を入手した。ダヤク族は首狩り族として蛮名をはせていた。
分かりやすいくらいの「文明」対「野蛮」の構図である。

この冒険小説はブルックの英雄伝のみに焦点を当て、失脚後には当然触れていない。400ページにわたり「これでいいのかな」と疑問に思うくらい「冒険」の名のもとにすべてが正当化されていく。

冒険小説は「強い酒」とよく似ていて、ある意味、危険である。少し読んでも酔い、多く読みすぎると宿酔いが重なり、やがて習慣になってしまうから。
by oxford-N | 2009-01-12 23:19 | 古本