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古本とビールの日々


by oxford-N

オックスフォード便り 204 「ヴェルレーヌ」

その昔、新開地の上崎書店で堀口大学が第一書房から出した『ヴェルレーヌ研究』を買った。天井まで積んである古本の山からやっとの思いで取りだした。

が、カラスに似た店主に差し出したところ、この値段は昔のもので今はちがうと言われ3倍もの値を提示された。ポケットにはかろうじて電車代しか残らなかった…。

無理して購入したのはあの第一書房の装丁で、すこぶる美本であったからだ。たしか荷風も褒めていた本だ。大切にしていたがそれも地震で無残な姿に化してしまった。
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こうした「ヴェルレーヌ・トラウマ」がこの度ようやく解消された。というのも1ポンドでジョアンア・リチャードソンの名著『ヴェルレーヌ』(1971)が出ていたからである。

詩人ヴェルレーヌは生前から有名人でとくに晩年10年は詳細な記録が跡づけられるくらい伝記、研究書がすでにぞくぞくと出版されていた。

これほど生活と詩が不可分な詩人も珍しい。飲酒癖は「幼年時代」から形成されるほど筋金入りで、ランボーの手首を銃で撃ってしまい、2年間服役する。

最初、殺人未遂に問われた罪はランボーの「事故だ」という弁護も功を奏さなかった。最晩年は病院と施設での日々を送る。

ついに詩を書く筆ももつことができなくなった時、人生の皮肉であろうか、死の2年前、詩人としての最高の栄誉を政府から授けられた。
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どの派にも属さず独自の詩境に遊んだ詩人の生涯は痛ましいが、そのボヘミアン生活はうらやましい限りである。
by oxford-N | 2009-02-16 21:09 | 古本