人気ブログランキング | 話題のタグを見る

古本とビールの日々


by oxford-N

オックスフォード便り 35 元祖「なんでも鑑定団」

オックスフォード便り 35 元祖「なんでも鑑定団」_b0081843_14361130.jpg


図書館が今日は1時間後でないと開館しないというので、表に出てみると長蛇の列が。延々とつづき、端は見えない。フランスまで届くのでは、というくらい果てしない。何ごとだ、これはいったい!? オックスフォード大学でもっとも古いカレッジを取り巻くこの列の正体は?

並んでいる人々に訊ねてみると、BBCのアンテーィク・ショウ(Antiques Roadshow)の録画撮りだという。日本の人気番組「なんでも鑑定団」の元祖である。息を切らして最後尾につく。待つことしばし。パンフレットを手渡されたので、中をのぞくと、30周年を迎えるという。長寿番組である。

オックスフォード便り 35 元祖「なんでも鑑定団」_b0081843_14371712.jpg


参加者はそれぞれ「お宝」を持参している。まだ幼い子供が自分の身長の5倍くらいあるマホガニーの机の番をさせられている。親は何をしているのだ、と憤ると、近くで骨董談義に華を咲かしている。でも、この熱中ぶりはどこからわいてくるのだろう?

いよいよカレッジに入ると人、人であふれかえっている。これだけの足に踏まれる芝生もかわいそう。大きなテントがあり、事前に鑑定品を品定めしてもらうようになっていて、「あなたは何を?」と聞いてくるので、「なにも鑑定してもらう品はない。自分が骨董品だから」と応えると、腹を抱えて笑いころげている。笑いすぎだよ、君。

オックスフォード便り 35 元祖「なんでも鑑定団」_b0081843_14362420.jpg


録画撮りは大変だ。家具、絵画、陶器などの部門に分かれ、撮影クルーが張りつく。いくつものカットをまとめて収録するやり方である。参加者の気分をほぐし、コメントを引き出す術もうまい。でも上空にヘリコプターが通過すると、雑音が入るので、また最初からやり直し。けっこう大変だ。

武器コーナーまであるので驚かされるが、「雑品」のコーナーに人の輪が幾重にもできている。いわゆる本当の意味での「お宝」が集まる。蝶の翅のコレクションから、今朝のんでいたコーヒーカップまで、何でも持ち込む。お爺さんの若いころの写真を鑑定してもらっている。サピア色の写真だが、骨董というには無理だろう。草葉の陰で爺さんも泣くぞ、骨董品あつかいされて。

オックスフォード便り 35 元祖「なんでも鑑定団」_b0081843_1436505.jpg


フランスの人気漫画タンタンのコレクションなど、出品された本も面白いものが多いが、無料で配布されたパンフレットがもっとも興味をひいた。番組の意義を語っていたが、国宝級の絵画が持ち込まれ、放映直後、大英博物館に入った例などを紹介し、失われようとした芸術品を再生させた功績を自讃している。

オックスフォード便り 35 元祖「なんでも鑑定団」_b0081843_1437762.jpg


究極の「お宝」を紹介している。それはオモチャの自動車である。これまで2台とない。こうなると「値がつけられない」という最高値がつくのである。では翻って、天下に1冊という本ではどうだろうか。自動車の場合とは明らかにちがう。たとえば漱石の猫が1冊しかないと仮定したらよく分かるのではないか。本は共有されているからこそ価値を増す側面がある。

多くの読み手によってそれぞれの読みが増幅される。読みに多様性がでてくると、その本はますます中身が濃くなっていく。1台しかないゆえに無限の価値がある自動車と、何百万冊でまわっている本の価値は反比例しているようだ。本は読者の参加をえてはじめて「本」になる。それゆえ均一台の均一本を礼賛したい。世の中に1冊しかない本なんて、考えられないし、意味もない。本ではないのだから。(N)
by oxford-N | 2008-07-01 21:42 | 古本