人気ブログランキング | 話題のタグを見る

古本とビールの日々


by oxford-N

オックスフォード便り 8 ベルギー篇 3

今日一日は本のことも忘れ、ゆっくり静養しようと海水浴場で有名なクノックというオランダに近い港町にきた。まだ5月だというのにもう海にはたくさんの人が入っている。うす暗い日々が続く北の国では少しの陽光でも身体に吸収しようと大勢の人が海岸を埋め尽くしている。
オックスフォード便り 8 ベルギー篇 3_b0081843_9115831.jpg

けたたましい音楽が響くので何事かと目をやると、冬物(!)のファッションショーである。季節感が土台から崩れそうになる。時間を超越し便利になる一方、結局、時間に支配されているのだろうか。先日買った本をもってきたが、眠気が襲い、アントワープに抜けて行く風がページをめくっているだけであった。

夜、皆でバーベキュウをしようということになり、早速、肉が持ち込まれたが、見て腰を抜かした。工事用のブロックくらいあるであろうか。焼肉屋での牛肉になれているわれわれは薄い葉っぱのような肉を食べていたことになる。大味かと思いきや、それがどうして、どうして。なかなかの味である。鮪もトロよりも上質の赤身がおいしいように、じつに繊細な舌触りだ。調味料は塩、胡椒のみ。それでも居合わせた人たちが「神戸牛を食べてみたい」と言い張るのだから、どこへいってもブランド信仰は根強いものだ。
オックスフォード便り 8 ベルギー篇 3_b0081843_9123278.jpg

食後、牛にならないように夜の街を「見よう」と口々にいう。ゲントの川べりを歩こうということになり、出かけていくと、ナイト・ライフの在り方がよくわかった。条例で景観が規制されていて、ファサード(前景)は必ず現状を維持することと決められている。アメリカ資本のホテルが進出してきてビルを建造しようとしたのだが、ファサードはそのままにして後ろにビルを建てざるをえなかった。それにしても美しい街である。志賀直哉が自分の短編集に『夜の光』という名前を与えた。電燈や灯火のことではなく、夜そのものが光り輝くという意味らしい。まさにそんな感じだ。運河を利用して繊維産業で栄えた町だが、これからも中世のたたずまいは変わることがないであろう。
オックスフォード便り 8 ベルギー篇 3_b0081843_9112220.jpg

by oxford-N | 2008-05-26 11:35 | ベルギー