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古本とビールの日々


by oxford-N

オックスフォード便り 48  「週末はパブへ!」

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前回、「食」の比較に及び、こちらのラーメン店を貶してしまった。日本の行列のできるような店が頭にあるものだから、つい比べてしてしまったのだ。では当地で一大チェーンを展開している意味はどう考えたらいいのか、ということになってしまう。

大げさにいえば英国民は味音痴で、日本人は細やかな味を理解できる繊細な国民になり、味の「国粋主義」ができあがってしまう。昔からの図式ができあがり、何も解決しない。これは避けなくてはいけない。そもそも味覚は相対的なものなのだから、である。

「グレービーソース」と「かつお出汁」を比較しても無意味なのと同じである。イギリスの人たちに合うからこそ全国規模で発展しているのだから、何も文句を言う筋合いではない。「パン」と「ごはん」のどちらが美味しいかと論じてもはじまらないのと同じこと。

以上、自己反省して、近所のパブ「ラディ」を紹介しよう。前回からとりあげている「物価」を考える点でいい材料を提供してくれるだろう。「ラディ」が登場するのは2回目である。店の全景は第37回の「オックスフォード便り」でアップされているから参照してほしい。(扉メニューは第38回に登場)。

そもそも「物価」を考えるとき、ものの単価だけで評価するのはあり得ないと思う。たしかに「物」の味と単価だけで、通いつめるような店もある。朝の出勤前に飛び込む新宿駅の立ち食いそば屋を考えてもらえばいい。

でも瞬時にそばをのどに流しこむようなこのような忙しい店でも、店の人との交流がないかと言えば、希薄であるとはいえ、なくはない。味は出てくる料理だけで決まるわけではない、と言いたい。

むしろ料理よりも料理をつつみ囲んでいる「雰囲気」が大切である。味覚エッセイの名品を読めば、その間の事情がのみこめてくる。食べものよりも「食べものにまつわる」ことが主になっている。たとえば机の上に活けてあった花に心遣いをみて安らぐという具合に。

ほとんど食べものは登場しないような時すらある。その料理が美味であるなんて一字も書いていないような時も大いにある。それでもそこの料理だけが光っている。客と店との交流をその「料理」が象徴しているからである。

その点このラディは申し分ない。じつに細やかな味とつかずはなれずの接客がみごとにかみ合っている。山口瞳流にいえば、「気働き」が行きとどいている、といえばいいだろうか。
居心地いい一因である。居酒屋の「居」は居心地のいいことだといった誰かの名言を思いだす。

あとは酒と肴だが、これがなくてはそろわない。サンドウィッチ、オムレツ、バーガー、ジャックポテト、ピザ、サラダ、パスタ、パイなどそれぞれ特色がある。

名物はジャンボ・ヨークシャープディングだが、今日はソーセージが切れているということで、「ハドックと青豆、チップスの付け合わせ」を注文。これで4.95ポンド。「バーベキュー・チキンにサラダとチーズ」5.95ポンド。「サーモン・ステーキ」8.95ポンド。「サーロイン・ステーキ」8.95ポンド。「湯でエビ」4.95ポンド。「自家製ソーセージ」4.50ポンド。

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こんがりとして匂いが鼻をまずくすぐる。ゆでたての青豆は湯気をたてて、青味をいっそう増す。チップスは自家製で、油切れもいい。魚にナイフを入れてみると、サクッという音が揚げ方の秀逸さを示す。一口ほおばると、海が広がり、冷たいビールが大海原にいざなう。至福の瞬間。皿が雄弁になりだし、グラスがリズムを奏でる。

どうです、「ラディ」へ来てみませんか?ビールが冷えていますよ。「物価」のことはすっかり忘れてしまった。(N)
by oxford-N | 2008-07-20 06:21 | オックスフォード