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古本とビールの日々


by oxford-N

オックスフォード便り 126 「100歳のレヴィ‐ストロース」

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『タイムズ・リテラィ・サップルメント』の最近号は、来月の28日に100歳の誕生日を迎えるクロード・レヴィ‐ストロースのプレイアード叢書を書評している。

聖書や辞書に使う、薄いインディアンペーパーに2000ページ以上が印刷されて、70ユーロで売りに出されたこの本が3ヶ月で13000部も売れたことにまず驚かされる。

書評は、収録されている「作品」をめぐってまず展開していくが、「悲しき熱帯」がどのようにして書かれたか、初めていろいろな事実が明かされていく。

サンパウロで雇ったドイツ人のタイピストに口述筆記させたのだが、パラグラフの変更も改行もないただ文章の大きな塊で、いわばコラージュのようなものであったという。

レヴィ‐ストロースが世界的に著名になったのは「野生の思考」以後であるが、この著述の英訳をめぐって、英語表現と彼自身の表現がすさまじい葛藤を繰り返すようになる。

英訳者側に言わせると意味不明に尽きる。著者は意味をくみ取ってくれないと、両者は平行線のままである。タイトル自体からすでに幾重にも意味がもたされている。

詩の世界を遊泳することが好きな英国民もさすがにこのワードプレイには閉口したらしく、上梓されたSavage Mindは、きわめて不満足なものであった。

その点、日本語訳の「野生の思考」は、今は亡き大橋先生の達意の翻訳で最大限の理解可能な表現をえて、われわれ読者は恵まれている。

構造主義も哲学的な人類学的思考もすでに廃れてしまって久しいが、またエピゴーネンたちも死に絶えてしまったが(私もその一人であるが)、レヴィ‐ストロース自身は残っている。

書評は、数々の概念を知の領域に横断的にまき散らしたフロイトと比較して、その長い書評を閉じている。

「その主張には多々問題があったが、著作全体を見渡してみるとき、それはまぎれもなく20世紀思想史に忘れがたい印象を刻んでいる」
by oxford-N | 2008-10-31 07:11