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古本とビールの日々


by oxford-N

オックスフォード便り 108 「ロンドン古書展 1」

オックスフォード便り 108  「ロンドン古書展 1」_b0157593_6281468.jpg日曜日のロンドン古書会は低調であった。客まで少なかった。渋滞で遅刻するし、いいことなし、で終わるかと思ったら、最後の最後に「福らしきもの」が待ってくれていた。

店番のおばあさんも疲れたのか、どっさりと美術書を積んだ横で居眠りをしている。見ると3ポンド均一の札が。指で背文字を指しながら移動していくと、何回も止まる。

おや、おや、これは…。ある、ある、何冊か。欲しかったが買わずにきた本がここでめぐりあった。『ヴィクトリア朝の挿絵本』(1971)がそのまず一冊目だ。

ふつうは20ポンドくらいの本である。リチャード・ドイルの『妖精の国』の挿絵はいつ見ても息をのむ。さすがのドイルもこれ以上の傑作はできなかった。

通史的に挿絵の流れを追っているのだが、世紀末に来ると息苦しくなる。無駄な空間がまったくオックスフォード便り 108  「ロンドン古書展 1」_b0157593_6294851.jpgなくなる。たとえばクレインの「眠り姫」。とてもこの挿絵でおとぎ話を楽しむ気にはなれない。

お姫様も息が苦しくて眠りに落ちたようだ。繁茂するツタはアールヌーヴォーの特徴だが、ドイツの健康読本からとられてイギリスに定着したという。逆療法かもしれない。

チャールズ・リケッツが描いたワイルド詩集『スフィンクス』の挿絵(Vale Press)。鈴木創士さんからサバト館で限定制作した同じ詩集を見せていただいたことがある。日夏訳であったか。
オックスフォード便り 108  「ロンドン古書展 1」_b0157593_630328.jpg

この本には面白い統計が載っている。19世紀末にこの詩集がどれくらいの値段で、何部売られたかを示している。

1894年6月8日に、並製本303部、特装版25部が売りにだされた。アメリカに50部、予約購読者が81部、数日後の在庫134部である。

著者ワイルドには1部につき定価1ポンド15シリングの10パーセントが印税として支払われた。

ちなみにこの頃の物価をみてみると、普及版は、バス運転手もしくは熟練工のほぼ1週間分の給料に相当する。都心の会社で働くエリート女性の週給が1ポンドであった。

特装版は5ポンド5シリングだから、住み込みメイド一人分の年収にあたる。4ポンドあれば葬儀費用がまかなえた。ロンドンの一流の仕立屋で、モーニングコートを仕立てても3ポンドであることを考えれば、とてつもない値段であることが分かってくる。

特装版はいざ知らず、普及版は時々古書市場に姿をあらわす。状態によって古書価はちがうが、発売時から考えれば、そんなに値上がりしているとは思えないのだが・・・・。
by oxford-N | 2008-10-15 06:31 | 古本