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古本とビールの日々


by oxford-N

オックスフォード便り 189 「ニューヨーク古本街」

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久しぶりに面白い古本随筆と巡り合った。古本屋盛衰記とでも言おうか、ほぼ1世紀にわたるニューヨーク古書街の泣き笑いの実話である。

ニューヨークには8百万の通りがある。ユニオンスクエアなどがある4番街の一角に昔から続く古本屋街がある。人が名づけて「ブック・ロー」(古本屋通り)という。

世界的に有名な古書店ストランドもこの一角を占めている。「ストランドは危険な場所だ。2時間足らずで店から出られることはありえないから」とブックマニアで俳優のリチャード・ギアが言っているように、ジャングルのような本屋である。

このストランド物語も興味をひくが、小さな古書店ピーター・スタマーの物語も中身が濃い。ロシアからイギリス、そしてアメリカへ渡ってきたピーターの身の上話である。

彼は古本屋を開業する前、タイプ職人であった。オスカー・ワイルドの「レデイング獄舎の唄」アメリカ版を製版したのはピーターであったというから、ここからすでに古本とは靱帯で結ばれていた。

彼の古本屋としてのやり方は顧客として民間企業、公立図書館、大学図書館を取引相手にしていた。確実な商取引が期待できるからである。

では買い入れはどうかというと、小さな古書店をこまなく歩いて背取りする仕入れをしていた。古書店にこそ古書が宿るという哲学があったからである。

古書業者としての何よりの強みは、本の表よりも裏に潜んでいる情報に明るかったことがあげられる。

誰も見向きもしなかったスコットランド女流詩人を大切にした。じつはその詩人は「女性」ではなく、男性で、有名な革命詩人の「ペン・ネーム」であることを知っていたからである。

これでもかというくらい興味津津の話が満載である。近所の古書店にて2ポンドで購入。
Marvin Mondli & Roy Meador, eds., Book Row (New York: Carroll & Graf, 2004)
by oxford-N | 2009-01-26 18:43 | 古本