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古本とビールの日々


by oxford-N

オックスフォード便り 10

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ロンドンにロンドン駅がないように、オッスフォードにもオックスフォード大学自体はない。30数校のカレッジを総称してオックフォード大学といっているからだ。そんな大学街のイメージが定着しているせいか、短期の滞在者にとっては中世の色濃く残る大学町と映るのだろう。今回は大学の街とはいささかちがう側面をご紹介しよう。

街の中央を走るグレイト・ウェスタン鉄道の駅から歩いて5分もしない所に、大草原が広がっている。牛、馬、羊がゆっくりと草をはみ、湿原には野鳥が飛来する。澄んだ水のなかを覗くとゲンゴロウのような虫が遊泳している。時折、犬の散歩にくる人と挨拶を交わす。周辺の人にとっては何もことさらハイキングに出かけるような場所ではなく、ごく近所の野原で、散歩コースなのである。それでも、このポートメドウ(Port Meadow)だけで、街の中央、周辺部は軽く入ってしまうと言えばその大きさを分かっていただけるだろう。

この大草原(の一部を)を横断して、ウルヴァコート(Wolvercote)という土地を目指す。出入り口の標識など一切ないから、樹海をさまようような気持ちになる。木々に覆われ、よく探さなくては分からない出入り口が数ヶ所しかない。手つかずの自然を温存しようとする意図はわかるのだが、散歩している人に出会わなければどのあたりを歩いているのやら皆目分からない。

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ウルヴァコートにたどり着くと、音を立てて流れる清流の響きが耳に入ってくる。もうすぐだ。目指すは18世紀から店を開いているというパブ『ます亭』(The Trout)である。ヴィクトリア朝の文人たちもよく訪れたという由緒ある店で、今はすっかり現代風に改装されているが、内部は昔の面影をよくとどめている。

店に着くと、大きな孔雀が出迎えてくれた。どうもお腹がすいているらしく、食事をしているテーブルに顔を突き出している。愛嬌があるのでみんなの人気者だ。でも写真が気に入らないのか、構えるとすぐに横を向いてしまうわがままなスターでもある。

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あいかわらず耳に心地よい清流の響きが音を立てている。これがテムズ川の…、と思わず疑がってしまうほどの清流である。日々の疲れが洗い落とされていくようだ。水面へ誰かが小石を投げたのかと振り向くと、魚が跳ねた水音だった。さすがに疲れて、帰りはバスに揺られていると、たった15分ほどで中心街に舞い戻っていた。どこが夢と現実の境目だったのだろうか。草のそよぎと水音だけが耳に残った。(N)
by oxford-N | 2008-05-28 12:56 | 古本