古本とビールの日々


by oxford-N

オックスフォード便り 52  「城の見える古書店」

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シティ・センターにあるオックスフォード・キャッスルが昨年再建され、週末には多くの人を集めている。再建といえば少し語弊があろうか。というのもここは1996年まで刑務所だった。城から刑務所に変わったのは1878年だから、およそ1世紀以上、「おつとめ」を果たしてくれたわけだ。

こちらは何でも郵便局に限らず、女王陛下の名前がつく。刑務所も例外ではない。でもなんとなく、「女王陛下の刑務所」というのはもうひとつなじめない気がする。しかも、この刑務所がホテルに変貌したのだから、さらに驚かされる。

大手マルメゾン・ホテル・チェーンが経営にあたっている。名づけて、「オックスフォード・プリズン・ホテル」。そのまますぎて言葉もないが、日本でたとえば、巣鴨の名前をとって、拘置所そのままのスタイルで、「スガモ・プリズン・ホテル」としたら、客はあつまるだろうか。
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刑務所をホテルに改造したのはさすがにイギリスでも初めてである。こだわるようだが、「シングル・ルーム」を予約するのには、「独房一部屋」というのだろうか。刑務所と考えるからいけないのだろう。でも何も手を加えようとはしていない。そのままである。あの刑務所特有の小さな窓を見て欲しい。
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再開発は手本にするような出来栄えである。劇場をしつらえ、夜の上演のため、練習に余念がない。近隣の建物との共存もみごとなものだ。古いビール醸造工場も何の違和感もなく建ち並んでいる。

この城は1078年に開城した。1000年近い歴史を誇っているわけだ。その城を出たところに、つまり城のもっとも近くに、古書店「ブック・ラヴァ」は店を構えている。店構えに特徴がないと言えばいえるが、無機質な店頭は期待できそうだ。
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でもショウウインドウをみて、その期待は裏切られた。バットマンをはじめコミックが隙間なく並べられている。ここまで来て、「秋葉系か…」と失望した。でも気を取り直し店内に入るとそうでもない。店半分はふつうの品揃えである。

入ったところにあった本をとって値段を確かめてみた。ほぼ売り値が一定している本があるものだ。その本を基準にここはどの程度の付け値を試みているかがわかる。アックロイドの『ディケンズ伝』は相場で4ポンド前後。ここは10ポンドもつけている。悪い予感がまた走った。

店内を回っても悪い印象を払しょくできない。伝記の棚へ足を進めると、サミュエル・ベケットのインタヴュー集がある。読みたかった本だ。新刊扱いのためか高くない。白水社から出ているベケット伝と同じ作者か。ベケットと20年来の友人とある。これは期待できそうだ。

本をレジに持っていくと、「日本でベケットは人気があるのか?」と質問してきた。
「いや、そうじゃなくて、お腹がすいていたからこの本にした」
「????・・・・・・・・・・?????」
「ベケットじゃなくて、空腹だからバゲットを食べたいのさ」と、パンに引っかけたシャレを説明したところ、床にころげんばかりに笑い転げている。そんなに笑うのなら、こちらが「笑」のお代を欲しいくらいだ。

好評に気をよくしてもう一問。
「じゃ、1週間のうちでもっとも強い曜日は?」
と、中学生級の問題を出してみた。でもまた、
「???……???」
まだキョトンとしている。仕方がないので、
「日曜日以外はウィークディっていうじゃない」
と’week’ を ‘weak’にひっかけたシャレを説明したら、またころげんばかりに笑い転げている。

城下町の古書店には笑いまくるコミック店主がいた。内心、この店は大丈夫だろうかと思いながら、店を後にした。[つづく] (N)
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by oxford-N | 2008-07-26 01:05 | 古本