オックスフォード便り 136 「冬の花火」
2008年 11月 06日
大本命は、湖水地方に観光ブームを初めてひき起こすガイドブックを書いたトマス・ウエストの『ファーネスの古美術』である。1774年刊行。(右から4番目)
予想価格は80から120ポンドである。妥当な価格だが、この価格ほ自分にとっては「無い」のも同然であった。500ポンドでも入れる覚悟があったからだ。
なぜウエストはガイドブックをあのように巧みに書けたのか、本書とガイドブックとのつながりを知らなくてはならいので、ツーリズム文化史をリサーチするにはどうしても必要な文献であった。
ウエストの直前に、ヴィクトリア時代に出た大部な『インペリアル・ディクショナリ』2巻があった。この辞書はヴィクトリア朝のものを読むとき、威力を発揮する。同時代の語彙を丹念に収録してあるからだ。(写真中央の2冊)
でもこの辞書にだれも手をあげなかった。オークショナーは都合上、つぎのウエストの抱き合わせにしてオークションを開始した。最初は20ポンドの値段からはじまった。
最初は4、5人が声をかけた。30ポンドのところで垂直に手をさっとあげ、強く意思表示をした。手をあげたままで下ろさなかった。
オークショナーは、35ポンド、と声をあげ、左右を見渡している。挙手したままという、誇示行動が効いたのか、誰も声をださない。
心のなかで「電話よ、鳴るな」と祈った。電話入札に奪われた苦い経験がある。その時、35ポンド!」というオークショナーの小槌が場内にひびきわたった。
「やった!」という歓びよりも、呆然としてしまい、何やら疲労感が身体じゅうに広がってきた。緊張から解放されたせいだろう。でも「よかった…」
まだ30点ほどのロットが残っていたが、支払いのとき長蛇の列ができるので、早めに引き取りに行き勘定を済ませた。
帰宅するとうれしさが込み上げてきた。心底、よかったと安堵がもれた。午後7時に友人とパブで食事の約束をしていたので、近所のパブへ向かった。
パブにつくとテレビで中村俊輔がシュートの解説をしている。日本語でしゃべっているから英語の字幕が入る。どうも妙な感じだ。
友人に向かって、「今日はご馳走するよ」と呼びかけると、「おお、何かいいことがあったな」と笑顔で返してきた。
オークションの顛末を報告すると長くなるので、「オックスフォードへきて、一番いいことだったかもしれないいなぁ」とつぶやくと、「じゃ、俺がおごるよ」と言ってくれた。
パブから外へ出ると、花火が冷たい夜空をゆらしている。ガイホークスの日を祝う花火までが祝福してくれているように耳に響いた。
予想価格は80から120ポンドである。妥当な価格だが、この価格ほ自分にとっては「無い」のも同然であった。500ポンドでも入れる覚悟があったからだ。
なぜウエストはガイドブックをあのように巧みに書けたのか、本書とガイドブックとのつながりを知らなくてはならいので、ツーリズム文化史をリサーチするにはどうしても必要な文献であった。
ウエストの直前に、ヴィクトリア時代に出た大部な『インペリアル・ディクショナリ』2巻があった。この辞書はヴィクトリア朝のものを読むとき、威力を発揮する。同時代の語彙を丹念に収録してあるからだ。(写真中央の2冊)
でもこの辞書にだれも手をあげなかった。オークショナーは都合上、つぎのウエストの抱き合わせにしてオークションを開始した。最初は20ポンドの値段からはじまった。
最初は4、5人が声をかけた。30ポンドのところで垂直に手をさっとあげ、強く意思表示をした。手をあげたままで下ろさなかった。
オークショナーは、35ポンド、と声をあげ、左右を見渡している。挙手したままという、誇示行動が効いたのか、誰も声をださない。
心のなかで「電話よ、鳴るな」と祈った。電話入札に奪われた苦い経験がある。その時、35ポンド!」というオークショナーの小槌が場内にひびきわたった。
「やった!」という歓びよりも、呆然としてしまい、何やら疲労感が身体じゅうに広がってきた。緊張から解放されたせいだろう。でも「よかった…」
まだ30点ほどのロットが残っていたが、支払いのとき長蛇の列ができるので、早めに引き取りに行き勘定を済ませた。
帰宅するとうれしさが込み上げてきた。心底、よかったと安堵がもれた。午後7時に友人とパブで食事の約束をしていたので、近所のパブへ向かった。
パブにつくとテレビで中村俊輔がシュートの解説をしている。日本語でしゃべっているから英語の字幕が入る。どうも妙な感じだ。
友人に向かって、「今日はご馳走するよ」と呼びかけると、「おお、何かいいことがあったな」と笑顔で返してきた。
オークションの顛末を報告すると長くなるので、「オックスフォードへきて、一番いいことだったかもしれないいなぁ」とつぶやくと、「じゃ、俺がおごるよ」と言ってくれた。
パブから外へ出ると、花火が冷たい夜空をゆらしている。ガイホークスの日を祝う花火までが祝福してくれているように耳に響いた。
by oxford-N
| 2008-11-06 21:15
| 古本